2013年6月27日木曜日

tomori lab 文献抄読会(4) 作業療法士はCLを意思決定に巻き込んだと思っていても,CLはそう思っていません.

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院生のohnoです.今日は以下の論文を読みました.

Maitra KK, Erway F : Perception of client-centered practice in occupational therapists and their clients. The American journal of occupational therapy, 60(3): 298-310. 2006.

作業療法士とクライエントのクライエント中心の実践における認識

【ABSTRACT】
目的:本研究の目的は,クライエントと作業療法士それぞれのクライエント中心の実践(client-centered practice)のプロセスにおける参加(involvement)について比較検討することである.
方法:成年期/老年期の施設に従事する作業療法士11名とクライエント30名を対象に,クライエント中心の実践について,特に目標設定のプロセスに関する認識について半構成的な面接を行った.記述的な統計値をデータ項目として分析した.また,長期介護施設もしくはリハビリテーション施設,病院(外来患者),病院(入院患者),老人ホームの4種の施設に分けて,クライエントと作業療法士のクライエント中心の実践のプロセスにおける考えの違いを明らかにするために一元配置分散分析を行った.
結果:本研究に参加した作業療法士は,作業療法サービスを提供する際のクライエント中心の実践の原則を有していた.一方で,クライエントはクライエント中心の実践についての,積極的に参加者としての役割を認識している者もいれば,参加に対して消極的な役割であると認識している者もおり,異なる認識が混在していた.同質と考えられる類似した質問に対する返答から,作業療法士とクライエントの間に認識の違いが存在していることが分かった.施設の種別が,(a)治療的目標の選択,(b)クライエントが設定した目標の推奨,(c)目標設定の過程におけるクライエントの認識の重要度,(d)目標設定の過程におけるクライエントの参加的な役割に関する教育,という治療過程における4つの項目において有意に影響している.
結論:作業療法士とクライエントの間に,クライエント中心の実践における認識に関するギャップが存在することが推察された.結果から得られた知見として,作業療法士によってクライエントが治療過程に取り組むための希望を引き出すための系統的な方略の開発が,クライエント中心の実践において作業療法士とクライエントがそれぞれの役割を遂行するための効果的な介入であると思われる.

〜論文の概要〜

 クライエント中心の実践(client-centered practice)は,クライエントを作業療法の中心に据えて展開され,先行研究によるとクライエントの満足度を向上させ,機能的な改善を促進し,リハビリテーション施設への入院期間の減少させるなどの利点があるとされている.また,クライエント中心の実践を成功させるためには,クライエントが目標設定のプロセスに参加するための希望や能力を有していることと,作業療法士が目標設定のプロセスにクライエントを巻き込むための動機や能力を有していることが必要であると報告されている.そこで,Maitraらはクライエント中心の実践に関する作業療法士とクライエントそれぞれの認識について調査することで,両者のギャップの存在を明らかにすることを目的として,クライエント中心の実践を行っている作業療法士と,その作業療法を実際に受けているクライエントに対してそれぞれ半構成的な面接を実施した.面接時の設問内容はNorthenらの先行研究を参考に,「属性」,「目標設定への参加」,「作業療法およびクライエント中心の実践に関する知識」の3つの観点を聞き出すことを目的とした内容で構成され,クライエントと作業療法士にそれぞれ20問ずつ用意された.
 面接の結果,作業療法士とクライエントでそれぞれ違った傾向が現れた.作業療法士全員が「クライエントに作業療法に関する説明を実施したか?」という問いに「はい」と答えている一方で,クライエントは「作業療法士から作業療法に関する説明を受けたか?」という問いに対して「はい」と答えたクライエントは60%程度だった.また,11人中10人の作業療法士が目標設定についてクライエントと話し合いをしたとしているが,自身の目標について十分に説明できるクライエントは30人中13人にとどまった.このような作業療法士とクライエントの間のギャップが生じる要因として,作業療法士が目標設定と治療計画を同一のプロセスとして認識している一方で,クライエントは目標設定と治療計画を異なるプロセスとして認識していることが考えられる.そのため,クライエントの作業療法への参加を促進し,クライエントとの意見交換を容易にするための方略を成立させるべきであるとしている.そして,その方略としてOccupational Performance History Interview (OPHI)のようなクライエント中心の実践に基づいた,系統的な方略の使用を推奨している.
(Maitraらは,施設の種別についても論じているが,今回は割愛させていただく.)


〜私見〜

近年のトップダウンアプローチへの関心の高まりに応じるように,作業療法においても「クライエントとの協働」が重要視されるようになってきた.しかし,Maitraらの報告から,作業療法士とクライエントの認識にはギャップが存在していることが分かった.ここで注目すべき点は,研究に参加した作業療法士のほぼ全員が「作業療法の役割を説明した」,「目標設定に参加することについてクライエントを指導した」,「クライエントが目標設定に参加した」などの設問に対して「Yes」と回答している点である.もちろんクライエント自身の作業療法に望む価値観の違いにもよるが,作業療法士が十分に説明を行い,クライエントの参加を促すことができたと認識していても,実際にクライエントの認識とはギャップが存在していたのである.つまり,「クライエントとの協働」を目指しているのであれば,クライエントを適切に作業療法に巻き込むことが出来ているのか,専門職としての自己満足だけで終始していないか,ということを十分に考慮しながら取り組んでいく必要があると考えられる.

Maitraらはギャップの解消のために系統的な方略(systematic strategy)の利用を推奨しているように,「クライエントとの協働」を重視するのであるならば,面接のための時間を設けたうえで,クライエントに応じて面接用のツールを使用することが望ましいと思われる(やっぱADOCって必要なんだなと思いました).

我々も,約100名の作業療法士を対象に作業療法実践内容に関するアンケート調査を行った.回答者の59.4%がトップダウンアプローチを実践しているとしていたが,面接に関しては全体の73.3%が「普段の会話で行っている」と回答した.次いで「面接のみの時間を設定(9.9%)」,「面接のみの時間を設定し,ツールを利用している(9.9%)」,「面接困難(6.9%)」となっていた.トップダウンアプローチにおいて,クライエントの大切な作業の特定や作業療法目標の設定は,その後の作業療法の成否を左右する非常に重要な段階であるが,多くのセラピストが面接のための時間を設けずに,目標設定を行っていることが分かった.

Maitraらの結果,および我々のアンケート調査から,わが国でもクライエントとセラピストの間には,それ相当のギャップが存在している可能性が高いと推察される.しかし,まだ検証はされていないので,今後研究が必要であると思われる.

最後まで読んでいただきありがとうございました.




Maitra KK, Erway F : Perception of client-centered practice in occupational therapists and their clients. The American journal of occupational therapy, 60(3): 298-310. 2006.

OBJECTIVE: The purpose of this study was to comparatively analyze the perceptions of clients and occupational therapists regarding their involvement in the process of client-centered practice.
METHOD: Participants (11 occupational therapists, 30 clients) in adult/geriatric health care facilities were each engaged in a semistructured interview to determine their perceptions of client-centered practice, specifically in the goal-setting process. Descriptive statistics were used to analyze the item data.
In addition, one-way analysis of variance was computed to identify the differences of opinions in clients and occupational therapists on the process of client-centered practice in four facilities: long-term-care or rehabilitation, hospital outpatient, hospital inpatient, and nursing homes.
RESULTS: The occupational therapists in this study indicated use of the principles of client-centered practice in their delivery of occupational therapy services. Their clients, however, displayed mixed perceptions about their role as active participants in client-centered practice and all responded in the negative when asked if they were aware of the approach.
 Perceptual differences existed between the occupational therapists and their clients in relation to the use of client-centered practice, because their responses to similar questions varied.
 Last, type of facility significantly influenced clients’ knowledge of certain aspects of their treatment processes in the following four areas: (a) treatment goal selection, (b) encouragement provided in setting clients’ goals, (c) clients’ perception of the importance in the goal-setting process, and (d) education of clients about their participatory role in the goal-setting process.
CONCLUSION: Results suggest that a perceptual gap exists between occupational therapists and their clients in relation to their stated use of and participation in client-centered practice. In light of the results, development of a systematic strategy by occupational therapists to elicit the roles that their clients desire to play in the therapeutic process may be an effective intervention to ensure that occupational therapists and their clients are able to fulfill their roles in client-centered practice.

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