2014年3月30日日曜日

作業療法を学ぶ(2014版) 

Clip to Evernote
晴耕雨読というとかっこいいですが,単に車を持ってないだけです.tomoriです.

さて,今年も書きました.僕の作業療法を学ぶシリーズ.毎年2年生に渡しています.60分ほどかけて解説していますのでうんざりするほど長いです.



作業療法を学ぶ  2014版

1) 高校までは教育,大学からは学習
 作業療法士を志して1年が経ちましたが,大学での勉強は高校までのそれと比べて,ちょっと違うなと感じることはありませんか? もちろん内容ではなくて勉強のやり方ほのことです.僕の好きな作家の中谷彰宏さんは,教育は受けるもので,学習は自ら自発的にするものと述べています1).確かに学習を受けるという言い方はしません.教育は義務という文字が付くくらい,全ての人がまんべんなく受けるもので,一人ひとりの差はつかないものです1).差をつけないのが「教育」だそうですが1),それは高校までです.大学からは学習です.自ら学ぶチカラが問われてきます.僕は特に作業療法ではこの自分で学ぶチカラが必要になると思っています.と言っても,授業をよく聞き,先生の教えを守り,テストで良い点を取ることが,自ら学ぶチカラとイコールではありません.もちろん真面目に勉強することが基本であることは間違いないのですが,それで100点ではないのです.それって問題を先生からもらってますよね.大事なことは,問題を作るとこから自分でやって,その解き方や答えまで自分でできるようになること,これがすなわち自分で学ぶチカラです.




2) 作業療法は不確実性が高い学問
 作業療法にはマニュアルや答えがありません.つまり医療の中でも不確実性が高い,正解が無い学問と言えます.んー,不確実とか正解がないというと,語弊があるかもしれませんね.正解はクライエント一人ひとりによって異なるため,と言い換えたほうが良いでしょう.また現代では正解というより納得が大事だと言われています2).正解なんて状況によってコロコロ変わりますもんね.作業療法では,教科書に書いてあることを覚える記憶力や,教員に言われたことを忠実に実践する能力に加え,それらをベースに自分で問題,解き方を生み出し,クライエントの納得を生み出す能力が必要になります.
 例えば,医師は患者さんの症状にあった薬を処方します.薬は禁忌事項や適応,数量など細かく規定されています.患者さんの症状を理解できれば,ある程度マニュアルに沿って薬を処方することができます.熱があれば,熱が下ればとりあえずOK.
 一方,作業療法は「作業を通してクライエントの健康と参加を促進すること」が目的になります.医師が薬を処方するように,クライエントが今よりも健康になるための作業遂行を一緒に考えます.でも健康って簡単そうでつかみ所が無いものです.検査上の健康状態は同じでも,クライエント一人ひとり感じ方が異なります.例えば,五体不満足の乙武洋匡さんが「自分は健康だ」と言ったり3),五体満足の方が「不健康だ」と言ったりします.自分自身にとって健康な状態とは何か定義するだけでも,意外に難しいものです.
 加えて作業療法では作業を扱います.これは手工芸だけでなく日常の活動全てです.作業療法士は非常にたくさんの作業を扱うこととなります.男性の作業療法士が化粧好きのクライエントを担当しますし,女性の作業療法士が木工好きのクライエントを担当することもあります.やったことない作業を自分ではなく他人ができるようにするって,かなり無理があります(笑).それやったことないので他の作業にしてくれませんか,なんてクライエントに言えませんよね.作業療法士は人が営む作業についても幅広い知識と経験が必要です.
 また作業というのはクライエントの意味を含むものです.つまり,クライエントによって感じ方や捉えかたがことなります.例えば仕事を義務と思う人もいれば,楽しみと思っている人もいますよね.その意味も作業療法にとっては大事.いやその意味の実現こそが作業療法で重要です.そして意味はクライエントが置かれている環境によっても変わります… まぁ授業で一緒に考えましょう.言いたいことは,とにかく複雑な学問なんですよ(笑)
 
 基礎医学,健康,作業,意味,環境などなど,作業療法で扱うものは,それ自体が全て複雑です.作業療法ではこれらのうまい組み合わせを考え,クライエントの納得を導きます.まずクライエントにとっての健康とな何か,健康になるためにはどの作業をどういうふうに行えばよいか考えます(評価).そして実際に作業を行いながら(介入),健康になったかどうか考えるます(再評価).このプロセスは学習と類似しています.臨床では問題はもらえません.作るのです.だからこそ,教育から学習に早く切り替えたほうが良いのです.




3) 複雑な仕事こそなくならない
 僕は別に皆さんを脅しているわけではありません.複雑だからこそ,作業療法という仕事が必要になるわけです.今後いろんな仕事が機械やコンピューターに取られていきます. ROM訓練,筋力訓練,歩行訓練,上肢機能訓練までも機械で対応可能になってきました.でも,作業と健康を結びつけるという複雑な仕事は,難しいぶん人にしかできないんです.実際,イギリスのオックスフォード大学による調査では4),IT化によって失われることはないと考えられる仕事のベスト10で,作業療法は6位でした(もちろん鵜呑みしてはいけませんが).「作業療法士なんてムリだ…」と思わないで下さい.もう一度念押ししますが,作業療法は複雑だからこそ,ITではなく人がやらなければいけません.僕は,早いうちにこの複雑な仕組みに気づき,高校まで慣らされた教育を受けるという姿勢から,少しずつ学習という自ら学ぶ姿勢に切り替えていけば,将来の混乱は回避できる.いや回避というより,自分で考える癖がつけばOTが楽しくなると言いたいのです.

4) 複雑だからこそやりがいがある
 あいにく福祉の心どころか将来の夢すら持ち合わせていなかった僕は,浪人中に親戚に勧められるがままに作業療法士を目指しました.しかし今はこの仕事に就いて本当によかったと思っています.現場で働いていたころ,クライエントと一緒に,あーでもないこーでもないと試行錯誤しながら作業遂行について考え,目標を達成し,「友利さんのことは一生忘れません」と言われた時,「オレって人の役に立ってるー」( ̄∇+ ̄)vキラーン と自分に酔いました(笑).いつか皆さんにも「これだからOTってやめられないよね」と思える日が来ることでしょう.それまでの道のりは決して楽ではありません.でも作業療法は,人や社会のためになっていると肌で感じることができる仕事です.その逆もしかりですが(笑).しかし人生は失敗があるからこそ,成功したときの喜びは大きいものです.成功や失敗のフィードバックを直に感じることができる仕事って,意外と少ないものです.ちなみにアメリカではBest of jobとして毎年上位にランクしています(2013は7位)5).

5) 自分で考える力をつけよう
 くどいですが,作業療法が楽しくなるポイントは,自分で考えるということです.それは勉強から学習に切り替えることです.学習とは,効率が悪く無駄や失敗が多くなります.試験範囲だけを勉強したり,過去問をもらって覚えたりする勉強法とは真逆です.時間かかっていいし,失敗してもいい.その旅路において,自分で考える力を養ってください.義務教育ではいかにミスを少なく皆に基礎学力をつけるかでしたが,大学はチャレンジ精神を養うところです.ミスを怖がってはいけません.もしミスしても,「専門家とは,自分の分野で,おかしうるであろう失敗を全て経験した人のことだ」(ニールス・ボーア)と言い切ってください.場数は大事です.
 自分で考えるチカラはトレーニングです.僕は,皆さんには考える力はあると信じています.思考をちょっとだけ切り替えれば,見えてくる景色が全然ちがってきます.考えられないんじゃなくて,考え方が分からないのだろうと思っています.大学では正解がない問題を出されるので,正解できなくて当たり前.私たちは作業療法について分からないからこそ学費を払ってまで勉強していると切り替えて,どんどん質問しましょう.それが考える力を養う近道だし,作業療法が楽しくなる近道です.


作業療法へようこそ


参考文献
  1. 中谷彰宏.自分で考える人が成功する―“気づく”ための50の方法.PHP研究所.2000.
  2. おおたとしまさ.子どもはなぜ勉強しなくちゃいけないの? 日経BP社 .2013.
  3. 乙武洋匡.五体不満足 完全版.講談社.2001.
  4. 吉澤準特.50%が失業? ITの進化で20年後に消えてしまう職業一覧http://blogos.com/article/79223/


最後まで読んで下さった方へ.ありがとうございます.


0 件のコメント:

コメントを投稿

Related Posts Plugin for WordPress, Blogger...