2016年5月29日日曜日

学術誌「作業療法」の過去10年で面白かった論文を紹介します.

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地元の部落対抗バレーボール大会に出てきました.tomoriです.よく分からないのですがサーブが決まりすぎて,前腕の屈筋群を痛めました.後衛でほとんどボールも受けてないのですが,疲労困憊です.



さて,わけあって機関誌「作業療法」の研究論文の過去10年分,295編をレビューしています.その中で,面白かった研究を紹介したいなと.ちなみに僕が面白い!と思うのは,研究として質が高いとか,デザインが厳格かどうか,というよりイシューを取り扱っているかどうかです.イシュー度が高い研究とは何なのかについては,この本を読んでください.



どんなに厳格な研究デザインであっても,その結果が世の中にとって何のインパクトを持たなければ意味がない.とまでは言わないが,インパクトが低い研究をいくら沢山やってもレバレッジが効かないんですよね.さておき,いくつか紹介します.



33巻 1号, pp. 67–74
統合失調症の認知機能障害に対する個別作業療法の効果
島田 岳, 小林 正義, 冨岡 詔子

要旨:統合失調症の認知機能障害に対する個別作業療法の効果を検討した.新規入院患者を対象に,目標指向的な個別作業療法群(介入群)または課題指向的な作業療法群(対照群)に任意に割り付け,3ヵ月後の効果をBACS-J,PANSS,GAFで評価した.41名が対象となり介入群は25名,対照群は16名であった.介入前の評価には両群間で有意差はなかった.3ヵ月後,介入群ではBACS-Jの言語性学習記憶,ワーキングメモリ,言語流暢性,注意と処理速度,遂行機能,総合得点,PANSSの陽性症状が有意に改善した.本研究は目標指向的な個別作業療法が回復早期の統合失調症の認知機能障害と精神症状を改善させることを示している.

→精神科では診療報酬体系が1日50人以内(これでも減った)となっており,個別作業療法が実施しにくい状況が長々と続いています.それとは反して,やれ早期退院促進やら,長期入院クライエントの高齢化でADLの介助や身体訓練が必要だったりと,個別で作業療法を行わないと厳しい状況にあります.このイシューに対して,対象者は多いとはいえないが,対照群を設けて介入を行い,良好な結果が得られています.今後,さらに研究デザインを洗練させることで良い研究へと発展するだろうと思われます.



認知症患者に対するコンピューターを用いた認知機能向上訓練の効果―前頭連合野機能を基盤とし個人の能力・興味にテーラーメイド可能な訓練の開発と試行から─
竹田 里江, 竹田 和良, 池田 望, 松山 清治, 石合 純夫, 船橋 新太郎
31巻 5号, pp. 452–462

要旨:ワーキングメモリ機能,目的志向的行動の計画や実行など前頭連合野機能を基盤にし,個人の興味・関心や遂行能力にテーラーメイド可能な訓練を開発した.今回,アルツハイマー型認知症の1症例に施行したところ,語の流暢性,抑制コントロール,記憶機能に向上を認めた.また,日常生活面での記憶,見当識,会話に改善が得られ,うつ状態評価尺度や症例の感想から情動面の改善も示唆された.本訓練は実生活に密着した内容で,対象に合わせて課題の難易度や題材を設定できる.単なる反復的な記憶訓練ではなく過去の記憶やアイディアの創出を刺激することを意図している.こうした特徴が症例の認知・情動の両側面の機能改善に寄与したと考えられた.

→やはりICTの活用は今後重要なテーマになってくると思いますが,いまのところただのキャッチーなゲームばかりで,期待度と現実のギャップが大きい領域でもあります.このギャップが大きいところにイノベーションが隠されているといっても過言ではないでしょう.現状,脳トレなどのゲームは,そのゲームのレベルは上達するけども,他の認知機能などへの汎化は難しいとされています.その一方で,青年期うつ病患者向けの認知行動療法をベースに開発されたゲーム,SPARXは,対面式の心理カウンセリングよりうつ症状を軽減させる効果があるそうです.本研究も1例ではありますが,将来性は高いと思いました.そして本来事例報告とはこうあるべきだろうと思いました.



休日リハビリテーションの有効性に関する研究の分析
澤田 辰徳, 小川 真寛
33巻 1号, pp. 11–23

要旨:国内外の研究から休日リハビリテーション(以下,休日リハ)の実施状況や効果を調査し,傾向と課題を明らかにすることを目的とした.PubMedおよび医学中央雑誌より20件の調査が抽出できた.調査的研究では休日リハ実施施設が増加傾向だがマンパワー不足の問題が明らかになった.実験的研究では入院期間(length of stay;以下,LOS)を調査した報告が多く,休日リハにより全体のLOSが短縮した報告は3件,サブグループで短縮した報告は3件,短縮が認められない報告は6件であった.成果の傾向は一様ではなく,今後,休日リハの日数や介入量,関連職種などの様々な要因を検討し,ランダム化比較試験などの質の高い研究を行う必要性が示唆された.

→我らが澤田さんの研究.ぼちぼち医療福祉における,厚労省の診療報酬の決定プロセスだったり,現場のブラックさだったり,色んな面で現場の医療福祉職が振り回され,週末までもこき使われる現状に少し嫌気がさしています... これから高齢化社会を迎えるにあたり,財源・人材は非常に貴重なものです.効果的に金と人をまわさなければいけない時期にあります.点数つけるかつけないか,ちゃんと検証してからにしてほしいです.でないと現場がますます疲弊していきます.澤田さんの研究は文献レビューではありますが,「科学的」に検証してから点数や現場をどうするか意思決定してほしいものです.



CI療法における麻痺側上肢の行動変容を促進するための方策(Transfer Package)の効果
竹林 崇, 花田 恵介, 天野 暁, 髻谷 満, 小山 哲男, 道免 和久
31巻 2号, pp. 164–176

要旨:【はじめに】Constraint-induced movement therapy(以下,CI療法)におけるTransfer Package(以下,TP)は日常生活における麻痺側上肢の行動を変容させる手法である.本研究では,TPの長期的な効果について検討する.【方法】研究デザインは2施設,単一盲検,偽無作為化比較試験である.対象者をCI療法にTPを導入した群(TP+群)とCI療法からTPを除いた群(TP-群)に割り付け,CI療法後6ヵ月間,麻痺側上肢の機能を調査した.【結果】TP+群は-群に比べ,6ヵ月後に麻痺側上肢は有意に改善した.【結論】TPは麻痺側上肢の長期的な改善を促す効果的な手段である.

→前も紹介しましたが,竹林さんのRCT.そもそも慢性期の麻痺手は治らないという定説を塗り替えるばかりか,訓練終了後の6ヶ月後でも機能が改善していくとは(笑)それだけでなく,作業療法最大の仮説と言われている,Mary Reilly「人は心と意志に賦活されて両手を使うとき,それによって自身を健康にすることができる」の検証に大きく前進させた研究でもあると個人的には思っています.作業療法の本質,まさにイシュー度高いし,解の質も高い,これぞ良質な研究ですね.本文に事例を載せていて,それも型破りな書き方で個人的には面白かったです.



他にもいろいろありますが,眠たいのでここで失礼します(笑) 研究のレビューって,どれだけデザインの質が高いか,で評価されがちです.RCT至上主義ってやつですかね.もちろんRCTが今後EBPを行う上で重要になってくることはよくわかりますが,いくらRCTでもイシューが低ければ意味がないと僕は思っています.研究のための研究はしたくないですね.ではでは.


最後まで読んでくださりありがとうございました.





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